ふみちゃんと凍み豆腐(しみどうふ)

う35年も前のことであるが、福島県の親類の家に突然おじゃましたことがある。学生時代までは結構行ったことがあったのだが、大人になってしまってからは忙しさにかまけて、ほとんど行かなくなっていた。なんの思いつきだったのか急に車の方向を変え、この家へと急いだ。道すがら私の頭の中をよぎったのは、幼少の頃にときどき会っていた6歳ほど年少の従妹のことかもしれない。結構な美人だったが、かわいがるつもりがいつも泣かしてしまうのである。

さんもそんなことがあったでしょ? かわいいと思っている子に意地悪をしてしまう。彼女が大学へ入るころには、さらに美人だし、意識過剰で話し掛けられなかったりもしたものだ。そうだ、今なら楽しい話ができるかもしれない。ついついアクセルは強く踏みがちになる。片道200キロメートルをあっという間に走り、懐かしい玄関先から私の第一声は「ふみちゃんいますか?」だった

く考えてみたら東京の大学へ行って、今は1年生か2年生。夏休みでもないし、田舎の家にはいるわけもなかった。

みちゃんはいなかったが、もう今は亡くなったのだが、当時の叔父からたくさんの高野豆腐をいただいて帰った。福島では「凍み豆腐」ともいう。寒冷地で豆腐を軒先で何回も凍らせて水分を飛ばす。これがものすごく美味なのだ。じっくり戻して煮物にするのが普通だが、そこは私のことだからラーメンに入れたりもする。とても贅沢な味わいである。今でも高野豆腐の料理が出ると、あのときには会えなかったふみちゃんをふと思い出す。